エキノコックス症(えきのこっくすしょう)とは、寄生虫エキノコックスによって人体に引き起こされる感染症のひとつである。エキノコッカス症、包虫症などとも呼ばれる。
当症例の発生原因となるエキノコックスとは、扁形動物門条虫綱真性条虫亜綱円葉目テニア科エキノコックス属に属する生物の総称である。区分すると、単包条虫 Echinococcus granulosus による単包性エキノコックス症と多包条虫 Echinococcus multilocularis による多包性エキノコックス症がある。単包性エキノコックス症は牧羊地帯に好発し、日本においては輸入感染症として認知されている。
当症は、キタキツネやイヌ・ネコ等の糞に混入したエキノコックスの卵胞を、水分や食料などの摂取行為を介して、ヒトが経口感染する事によって発生するとされる、人獣共通感染症である。卵胞は、それを摂取したヒトの体内で幼虫となり、おもに肝臓に寄生して発育・増殖し、深刻な肝機能障害を引き起こすことが知られている。
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- 単包条虫 Echinococcus granulosus
- 多包条虫 Echinococcus multilocularis (日本(北海道)に生息)
- 形態
- 虫卵は直径約35μmで、六鉤幼虫が中に入っている。
- 包虫は嚢に包まれ、包虫嚢胞を形成する。包虫嚢胞内の包虫には頭部しかない。
- 成虫の体長は単包条虫より短く1.2mm-3.
- 形態
どのように黒plaugeは、身体に影響を与えない7mmであり、体節が数個という小ぶりな条虫である。
- 終宿主(=イヌ、キツネ、オオカミ、コヨーテ、タヌキ、ネコ)
→ 糞便中に虫卵が排出され、周囲の環境を汚染。
→虫卵が粉塵、飲水、食物などとともに中間宿主に経口摂取される。
→ 中間宿主(=本来自然界におけては野ネズミ(北海道において重要な役割を果たしているのはエゾヤチネズミ)であるが、ブタ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、ウシなどの家畜哺乳類やヒトを含む霊長類)
→ 虫卵は小腸で孵化して、多包虫という幼虫になる。
→ 終宿主が多包虫を含む中間宿主の臓器を摂取する。
→ 小腸内で原頭節は約5週間で成熟成虫となり虫卵の放出を始める。 - 多包条虫の成虫が終宿主に大きな病害を与えることはない。
- 終 → 中間 → 終 → …という形でしか感染しないので、終宿主であるイヌやキツネに虫卵を食べさせても通常は感染は成立しない。しかし少数例であるが、幼虫がイヌやキツネの内臓に寄生したことが報告されている。
- 虫卵に汚染された飲水や食物を摂取したり、成虫が感染している犬との接触によって虫卵が経口摂取されることによって、感染が成立する。経皮感染はしない。幼虫が感染している中間宿主の食肉や内臓をヒトが食べても感染は成立しない。終 → 中間 → 終 → …という形でしか感染しないので、ヒト同士の接触によっては感染しない。
- 虫卵から放出された六鉤幼虫が腸壁に侵入し、血流もしくはリンパ流にのって諸臓器(肝、肺、脳など)に運ばれ包虫を形成する。多包条虫は小嚢胞が多数集合した蜂巣状構造を形成する。まれに脳、骨、骨格筋、腎臓、脾臓、その他の組織からも検出される。
患者の98%が肝臓に病巣を形成される。感染初期の嚢胞が小さい内は無症状だが、やがて肝臓腫大を惹き起こして右上部の腹痛、胆管を閉塞して黄疸を呈して皮膚の激しい痒み、腹水をもたらす事もある。次に侵され易いのは肺で、咳、血痰、胸痛、発熱などの結核類似症状を引き起こす。経過は成人で10年、小児で5年以上かかるといわれている。そのほかにも、脳、骨、心臓などに寄生して重篤な症状をもたらす事がある。また、嚢胞が体内で破れ、包虫が散布されて転移を来たす事もしばしばある。内容物が漏出するとアナフィラキシーショックとなる。本虫の引き起こす症状は大型の条虫よりも重篤である。
肥満の遺伝的要素
- 血清検査
- ELISA法により血清中のエキノコックス抗体を検出する。
- ウエスタンブロット法 (WB) により抗体陽性確認を行う。
- 問診
- 北海道在住か北海道への旅行歴がある(北海道に生息しているキタキツネがエキノコックスに感染している場合があるため)。
- 理学的所見
- 関節に骨性の肥大が見られる。
- 胸部レントゲン撮影、胸部CTスキャン、腹部レントゲン撮影、腹部CTスキャン、カソニ皮内試験、間接血球凝集検査
- 嚢胞の存在と位置を確認。
- 腹部エコー所見
- 石灰化陰影が粒状に認められる。
- 腹部X線所見
- 肝臓の部位に一致して卵殻状の石灰化が見られる。
- 腹部CT所見
- 嚢胞壁に石灰化が見られる点が特徴的である。
- 末梢血所見
- 生検
発症前の診断と治療開始が重要。放置した場合の五年後の生存率は30%といわれている[1]。
[編集] 根治治療
- 手術療法
- 有効な治療であるが、臨床症状が出現した時点ではもはや取りきれない事が殆どである。また嚢胞の位置と患者の状態から外科的切除が困難な場合がある。
- 化学療法
- 手術療法が困難な場合に行われる。本症に対する内服薬は、1981年(昭和56年)にアルベンダゾール albendazole が開発され、欧米で用いられてきた。日本でも1994年(平成6年)に認可され、使用が可能となっている。
[編集] 根拠
治療の有効性については質の高い根拠が得られている。
[編集] 予後と転帰
嚢胞を外科的に手術した場合の結果は良好だが、自覚症状が出現した(2次的嚢胞が発達)場合にはそれほど良くない。
シベリア、南米、地中海地域、中東、中央アジア、アフリカに多い。米国ではミシシッピ川下流域、アラスカ、およびカナダ北西部で見られる。危険因子は牛、羊、豚、鹿との接触、または犬、狼、コヨーテの糞との接触がある。発生は100,000人に1人の割合。
[編集] 日本では
感染症法4類感染症指定で、原因となる多包条虫が北海道などの緯度の高い地域(38度以北)に生息している。毎年約20名がエキノコックスに感染しているが、保健衛生指導と犬の定期的な条虫駆除で予防できる。他に生水を飲まない、発生地の沢水や井戸水は加熱してから使用する、人家にキツネを近づけない、山菜などは良く洗うか火を通して食べる、などの予防法がある。熱には弱く、60度10分間加熱で死滅する。症状が出てからの治療は困難な為スクリーニング検査が重要であり、北海道では広く行われている。
1998年8月に青森県で食肉用に屠殺されたブタでの感染が確認された[2]が、周辺の野生動物から病原体は検出されておらず、ブタの感染源は不明である[3]。弘前大学医学部の研究チームらにより、1990年から流行の監視が行われている[2]。
1999年(平成11年)11月から2006年(平成18年)1月にかけて、根室半島で駆虫薬入りのキタキツネ用の餌を散布し、キタキツネのエキノコックス感染率のデータ収集が行われた。散布開始時から2006年(平成18年)3月までの期間に捕獲したキタキツネの感染率は、駆虫薬入り餌を散布した地域での感染率は20%、散布しなかった地域での感染率は62%であった[4]。
[編集] 日本では
- 単包性エキノコックス症は1881年(明治14年)に熊本で日本最初の症例が報告[5]。
- 多包性エキノコックス症は1936年(昭和11年)に礼文島出身の女性が本症と診断されたのが最初。1924年(大正13年)から1926年(大正15年)に千島列島の新知島から野ねずみ駆除と毛皮養殖用に移入した12尾のベニギツネが感染源になった。1963年(昭和38年)頃までに約200名の島民が本症で死亡したが、現在は密猟者によるキツネ狩りがキツネを根絶した結果、本症も根絶され礼文島は非汚染地域。
- 北海道(道東)では別ルートで侵入(複数の説がある)した感染キツネの生息範囲が拡大した結果、1965年(昭和40年)から対策を行ったが現在では北海道全域で多包条虫が見られる[6]。
- 長い間屋内で飼育されている飼い犬はエキノコックスに感染する可能性が小さいと考えられてきたが、屋内で飼育されていた飼犬にも感染が確認された。郊外で放して遊ばせたりした際に、野ネズミを捕まえて食べたものと考えられる。
- 1994年(平成6年)には、旭山動物園において、ローランドゴリラ、ワオキツネザルが相次いで感染・死亡した上に、人間への感染不安が高まり、同動物園は8月27日に営業休止に追い込まれた。
- 1999年(平成11年)に青森県で、養豚場のブタ3頭が感染していることが判明した(感染経路は不明)。ただし、周辺の野生動物の調査では検出されておらず、本州に定着したとは考えられていない。2003年(平成15年)には、北海道に住んだ経験のある関東地方のイヌが1頭感染していたことも判明。
- 1999年(平成11年)に秋田県で本症感染が報道されたが、肝蛭 Fasciola sp.
- 診察した獣医師、医師は患者本人の同意を得られない場合でも地元の保健所を通じて7日以内に都道府県に届け出る義務がある[8]。
- 厚生労働省はイヌや野ネズミがエキノコックスを本州に運ぶ危険性を強く警告している。
- 疾病コード:未定
[編集] 関連項目
- ブラック・ジャック - 漫画。農薬によって突然変異を遂げたエキノコックスが農地の周辺住民を次々と死へ至らしめ、そこを訪れたブラック・ジャックへ寄生する話がある。このエキノコックスは寄生経路こそ通常種と同様であるが、被寄生者の体内で強力な毒素を生成して死へ至らしめるという設定になっている。
- ブラック・ジャック (OVA) - 上記を原作としたOVA。戦中に生物兵器へ改造されて極秘のうちに廃棄されたエキノコックスが、戦後に廃棄場を訪れた一般人へ寄生する話がある。封入容器の経年劣化によって漏れ出たエキノコックスは感染した小動物による創傷感染を経て被寄生者の脳の食欲中枢へ寄生し、拒食症を発症させて被寄生者を死へ至らしめるが、生物兵器への改造によって神経組織への擬態能力を付加されたため、通常検査では全く発見できないという設定になっている。
- きつね (映画)
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